はじめに 集患支援業者を活用する際の注意点
「コンサルタントや広告代理店から様々な施策や集患ツールを提案されるが、どれを導入すべきか迷っている…」
クリニック経営において、このような悩みを抱える院長先生は少なくありません。
日々の診療に追われる中、プロからの提案は魅力的に映るかもしれません。しかし、自院の経営数値を正しく把握しないまま提案を鵜呑みにし、なんとなく発注してしまうと、期待したような集患効果は得られません。それどころか、ただ不要なコストを払い続ける「業者のカモ」になってしまいます。
なぜなら、コンサルタントや代理店が最終的に売りたいのは「自社の商材」だからです 。彼らは自院の根本的な課題を解決することよりも、自分たちのパッケージを導入させることを優先しがちです。
だからこそ、外部の提案をそのまま受け入れるのではなく、自院に本当に必要な施策かどうかを「院長自身」が判断しなければなりません 。感覚や業者のセールストークに流されるのではなく、客観的な「数値データ」に基づいて優先順位を決めることではじめて、課題ではない部分への過剰な投資を防ぎ、コストを最適化することができます 。
本記事では、外部業者を正しく活用し、クリニックの売上を確実に伸ばすための「数値分析の基礎」と「具体的な改善アクション」を解説します。
売上を4つの変数に分解する
業者の提案を精査するためには、まず「売上がどのような要素で成り立っているか」を論理的に理解する必要があります。クリニックの売上は、決してどんぶり勘定ではなく、以下の4つの変数の掛け算で決まります 。
【クリニックの売上方程式】
認知数 × 来院率 × 平均来院回数 × 平均単価 = 売上
まずは、それぞれの数値が何を意味しているのかを定義します。
- 認知数: クリニックが地域の患者に知られている総数
- 来院率: クリニックを知った人が、実際に予約・来院する確率
- 平均来院回数: 患者1人あたりの月間通院回数
- 平均単価: 患者1人・1回あたりの売上
どの数値が低いかによって、打つべき対策(導入すべきツールや施策)は全く異なります 。もし「平均来院回数」が低い(離脱が多い)クリニックが、業者に言われるがまま「認知数」を上げるための高額な広告費をかけても、穴の空いたバケツに水を注ぐようなもので、根本的な売上改善には繋がりません。
まずは自院の数値を全国平均と比較する
どの数値が低いかによって、打つべき対策は全く異なります 。そのため、自院の「どの数値が低いのか」を特定せずに、やみくもに集客ツールを導入することは非常に危険です。
なぜなら、患者が定着せず(来院回数が低い)、適切な診療報酬を得られていない(単価が低い)状態、つまり「穴の空いたバケツ」の状態で新規患者をいくら集めても、売上は一向に積み上がらないからです。
まずは、自院のレセコンから直近1ヶ月分のデータを抽出し、以下の「全国平均(ベンチマーク)」と比較して、自院の経営状態にエラー(穴)が起きていないかを正確に把握しましょう 。
※データの信頼性について 以下に示す診療科別のベンチマーク数値は、厚生労働省が公表している『社会医療診療行為別統計』内の「1件当たり日数」および「1日当たり点数」の全国平均データです。
【診療科別】平均来院回数のベンチマーク(月間)
平均来院回数は、患者1人あたりの月間通院回数を示します 。この数値が全国平均を下回っている場合、リハビリや治療継続率に明確な課題がある(患者が途中で通院をやめてしまっている)可能性が高いと判断できます 。
診療科別 患者1人あたりの月間通院回数
- 整形外科: 3.4回
- 精神科: 2.3回
- 内科: 1.4回
- 耳鼻咽喉科: 1.4回
- 小児科: 1.2回
- 皮膚科: 1.2回
【診療科別】平均単価のベンチマーク(1回あたり)
平均単価は、患者1人・1回あたりの売上(保険診療+自由診療/自費診療)を示します 。以下の数値を下回る場合、提供している医療価値に対して、算定漏れや検査不足が発生している可能性が強く疑われます 。
- 内科: 6,420円
- 精神科: 5,960円
- 小児科: 5,340円
- 眼科: 4,230円
- 耳鼻咽喉科: 3,960円
- 整形外科: 2,890円
特に内科において、平均単価が5,500円未満の場合は、特定疾患療養管理料などの算定要件を満たしているのに算定できていない「算定漏れ」がないか、特に注意が必要です 。自院の平均値と乖離が大きい場合は、直ちにレセプトの総点検を実施することが推奨されます 。
数値をもとに取り組むべき施策を考える
第2章で自院の平均来院回数と平均単価を把握できたら、次はどの数値を改善するべきかを検討します。
検討の流れとしては、平均来院回数と平均単価を最重要な数値と捉え、その2つへの対処を行なってから、認知数と来院率の改善に着手することが望ましいです。
・平均来院回数と平均単価のいづれかに問題があった場合
→最優先で平均来院回数と平均単価を改善する
・平均来院回数と平均単価に問題がなかった場合
→認知数と来院率の改善に取り組む
まずは4つの指標に対する改善施策の全体像をまとめます。
平均来院回数の改善施策
- 会計時における次回予約のルール化
- LINEやSMSを活用した予約前日のリマインド配信
- 治療完了までの目安を伝える治療計画の提示
- 院内オペレーション改善による患者満足度の向上
平均単価の改善施策
- レセプト総点検による算定漏れ対策
保険診療に関しては改善が難しいものの、平均単価が問題になっているケースはさほど多くありません。
来院率の改善施策
- 広告・HPの改善
- オンライン予約のボタン配置と動線改善
- Googleマップ等の口コミの充実
認知数の改善施策
- Googleマップで上位表示されるためのMEO対策
- HPのSEO対策
- 指名や地域キーワードでのWeb広告出稿
- 視認性の高い場所への看板設置
ここからは、それぞれの施策の具体的な実行手順を優先順位の高い順に解説します。
平均来院回数を引き上げる施策
患者の治療中断を防ぎ、適切な通院頻度を確保することが目的です 。
次回予約のルール化 患者任せにせず、会計時に次回の予約日時を確定させる運用を徹底します 。
リマインド配信 うっかり忘れによるキャンセルを防ぐため、LINEやSMSを活用し、予約前日に自動で通知を送る仕組みを作ります 。
治療計画の提示 初診時などに治療完了までの目安となる回数や期間を患者に説明し、しっかり合意を得ることで継続率を高めます 。
平均単価を引き上げる施策
適切な診療報酬の算定と自費診療の活用により、クリニックの収益性を確保することが目的です 。
算定漏れ対策 特定疾患療養管理料などの算定要件を満たしているか確認し、レセプトを総点検します 。医師の感覚に頼らず、事務スタッフと連携したチェック体制を構築することが重要です。
自費診療の活用 問診票に自費診療への興味を確認する項目を追加し、希望者にのみ案内を行います 。あわせて、待合室での院内掲示で認知を広げることも有効です 。
来院率を引き上げる施策
認知した患者を効率よくHPからの予約につなげることが目的です 。
広告文とHP見出しの改善 リスティング広告の文章に、土日診療や駅近など、患者が求めている具体的なメリットを明記します 。さらに、患者の検索意図である症状と広告の見出しを一致させることがクリックされる工夫となります 。
予約しやすさの改善 スマートフォンでHPを見た際、画面下部に予約ボタンを常に表示させます 。また、予約フォームの入力項目を氏名と電話番号と日時の3つのみにするなど最小化し、入力の手間を削って途中離脱を防ぎます 。
認知数を引き上げる施策
商圏内でクリニックの露出を最大化することが目的です 。
Googleマップ対策 ビジネスプロフィールに院内の写真投稿を行い、診療時間等の最新情報を常に更新します 。
HPのSEO対策 地域名と疾患名で検索された際に上位表示されるよう、自院のHP内に専用のページを作成します 。
Web広告と看板設置 自院の指名キーワードや地域キーワードでのWeb広告出稿を行います 。また、視認性の高い場所へ看板を設置し、物理的な認知を広げます 。
まとめ:データに基づき自院に必要な施策を選択する
クリニック経営において、コンサルタントや集患支援企業の提案を鵜呑みにせず、院長自身が正しい判断を下すことが何よりも重要です。感覚や業者のセールストークに流されるのではなく、客観的なデータに基づいて自院に必要な施策を選択してください 。
業者のカモにならず、着実にクリニックの数値を改善していくためのアクションは以下の4ステップです 。
- 自院のレセコンデータを確認し、全国平均のベンチマークと比較する 。
- 売上を構成する4要素である認知数と来院率と平均来院回数と平均単価のうち、数値が低い項目を特定する 。
- その低い項目をもとに、自院が最優先で取り組むべき施策を判断する 。
- 今後外部から提案があった際は、それがどの数値を改善するための施策かを確認して判断する 。
この手順を徹底することで、課題ではない部分への過剰な投資を未然に防ぎ、コストを最適化しながら売上を伸ばすことができます。
なお、日々の診療が忙しく、これらの数値確認を自院のみで行うのが難しい場合は、分析の外注も可能です 。4つの指標に基づいた詳細な分析を約1ヶ月で提供するサービスなどもありますので、自院の現在地を正確に把握したい場合は、そうしたサポートを活用してみるのも一つの有効な手段です 。