本記事では、クリニックのWeb集患を専門とするマーケターであり、医学部に在籍する筆者が、オンライン診療・集患オペレーションSaaS「march」を実際に使用してみた感想をまとめています。
集患担当者としていくつかのクリニックで電子カルテやオンライン診療システムを触ってきたなかで、marchはかなり個人的に好きなプロダクトです。marchは自由診療の需要に特化した電子カルテであり、集患目線で必要な機能が充実していて、システム自体はかなりモダンな設計になっている印象です。しかし一方で、そのカスタマイズ性の高さゆえに、使いこなすために一定のITリテラシーが必要になる電子カルテでもあります。
本記事では、marchの特徴を集患に携わるマーケター目線で紹介し、電子カルテ「march」のレビューをします。今後開業を検討している医師の先生方や、カルテの乗り換えを検討中の医師の先生方の参考になれば幸いです。
執筆者プロフィール| 太田 旭
株式会社eggside 代表取締役。医学生をしながら、自由診療のための医師向けメディア「doctorside」を運用しながら、LP制作、Google広告運用、SNS運用代行など、クリニック・歯科医院を中心としたマーケティング支援に従事しています。
marchとは何か ― 電子カルテではなく「集患×オンライン診療」のSaaS
まず前提として整理しておくと、marchはいわゆる電子カルテではありません。株式会社Wrusty(代表取締役:上田 遼、本社:東京都渋谷区)が開発・提供する、医療機関向けのオンライン診療・集患オペレーションSaaSです。
公式サイトでは「医療機関の”成果に責任を持つ”オンライン診療・集患オペレーションSaaS」と謳われており、診察予約から事前問診、オンライン診療、決済、処方薬の配送、さらにはLINEを活用したCRM・マーケティングまでをワンストップで提供するプラットフォームという位置づけです。
既存の電子カルテ(ORCA、CLIUSなど)とのAPI連携にも対応しており、カルテは別途利用しつつ、marchで集患からオンライン診療、患者フォローまでの一連のオペレーションを構築する、という使い方が基本になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| サービス名 | march(マーチ) |
| 提供元 | 株式会社Wrusty |
| 代表者 | 上田 遼 |
| 本社所在地 | 東京都渋谷区代官山町18-6 |
| サービス種別 | オンライン診療・集患オペレーションSaaS |
| 主な対象 | 自由診療クリニック(AGA・ED・美容・皮膚科・内科ほか) |
| 電子カルテ連携 | ORCA、CLIUS(ORCA内蔵型)と連携可能 |
| 患者側UI | LINE上で完結(アプリDL不要) |
| 費用 | 要問い合わせ(公式サイトより資料請求可能) |
| 導入実績 | 導入医療機関の継続利用率97%(公式プレスリリースより) |
公式サイト:https://march-cos.com/
marchに対する率直な所感 ― 設計者の中にマーケターがいるのではないか
marchを触ってみて最も強く感じたのは、「これはマーケターが設計に関わっているのではないか」ということです。
通常、オンライン診療システムや電子カルテは「診療業務の効率化」が主眼です。予約を受けて、問診を取って、診察して、会計する。その一連のフローをデジタル化することが目的であり、「患者がどこから来たのか」「どうすればリピートするのか」という集患・マーケティングの視点は、別のツールで補完するのが一般的です。
marchはそこが根本的に違います。集患からオンライン診療、再診誘導、物販までを一つの仕組みとして設計しており、マーケティングツールと診療ツールの境界線がほぼ存在しません。
marchを使ってみて感じた6つの特徴
① 流入経路分析機能 ― 施策別に患者の来院経路を分析できる
marchには流入経路分析機能が標準で搭載されています。自分たちで予約リンクのパラメータを設定することにより、これにより、患者がどの広告・どのチャネルを経由してLINE友だち登録や診療予約に至ったかを、march管理画面上で確認できます。さらに、Googleアナリティクス連携にも対応しており、患者IDと流入経路を照合することで、
・どの患者さんが
・どの予約ボタンをクリックして来院したか
を正確に測定することが可能です。
② LINE連携の設計が本格的 ― CRM・リマインド・ECまで一気通貫
marchの最大の特徴のひとつが、LINEをプラットフォームの中核に据えている点です。患者はアプリをダウンロードする必要がなく、LINEの友だち登録だけで予約・問診・オンライン診療・決済まで完結します。
公式サイトの機能一覧を見ると、LINE関連だけでもシナリオ配信、セグメント配信、自動応答、リッチメニュー設定、リッチメッセージ配信と多岐にわたります。これはLINE公式アカウントの運用ツール(Lステップなど)が単体で提供している機能を、marchがオンライン診療と一体化させたかたちです。
日頃クリニックのLINE運用に関わる身としては、「電子カルテ(もしくは診療管理システム)とLINEツールのデータがバラバラで連携が大変」という課題を常々感じています。marchはその問題をシステム設計の段階で解消しており、患者データと配信データが同一基盤上にあるため、たとえば「初診から3日後にフォローアップメッセージを自動送信」「再診予約が入っていない患者にリマインドを送る」といったシナリオを、外部ツールなしで構築できます。
加えて、LINEオンラインストア機能によって物販・定期購入にも対応しています。自由診療クリニックにとっては、治療だけでなくホームケア商品の販売やサプリメントなどの商品の販売が売上の柱になるケースが多いため、これが診療と同じプラットフォーム上で管理できるのは実務上の大きなメリットです。
③ ヘルプ記事の網羅性が高い ― 調べれば大抵のことは自力で解決できる
ITツールやSaaSを使用するとき、ヘルプ記事の網羅性の高さは大きな鍵になります。
marchのヘルプ記事の網羅性はかなり高く、大抵の課題に対する解決策は自力で見つけることができます。
SaaSツールのヘルプというと、基本操作だけが書かれていて肝心なところは「お問い合わせください」で終わるケースも少なくありません。marchのヘルプは、設定手順が画面キャプチャ付きでステップごとに解説されており、「調べれば自分で解決できる」状態が作られています。
Webサービスの世界ではセルフサーブ型のサポートと呼ばれるアプローチですが、これがしっかり実装されている医療系SaaSは多くありません。ITリテラシーの高いスタッフがいるクリニックであれば、サポートに問い合わせる前にヘルプで大半の疑問を解消できるはずです。
④ カスタマーサクセス体制 ― 使いこなせないまま放置されない
ヘルプで解決できない問題が発生した場合の体制も、marchの特筆すべきポイントです。
marchでは、クリニックごとにカスタマーサクセス担当者がつき、導入後の運用支援を継続的に行っています。担当者ごとに対応のばらつきはあるかもしれませんが、自分が支援しているクリニックでは、担当者に質問すると丁寧に回答してくださるため、運用課題の洗い出しや改善提案を受けることができます。さらに、問い合わせ内容が技術的に深い場合は、機能設計に詳しい専門の担当者を交えた打ち合わせを別途セッティングしていただいたケースもありました。
これは単なるカスタマーサポート(問い合わせ対応)ではなく、カスタマーサクセス(顧客の成功を支援する体制)と呼ぶべきものです。SaaS業界ではカスタマーサクセスの概念は一般的ですが、オンライン診療や電子カルテの領域でここまでの体制を敷いているプロダクトは珍しいという印象です。
公式プレスリリースによれば、marchの導入医療機関の継続利用率は97%とのことです。この高い継続率の背景には、このサポート体制が大きく寄与していると考えられます。
⑤ 権限管理がモダン ― ロールベースのアクセス制御
marchの管理画面に触れていて気づいたのが、権限管理の設計がモダンなSaaSプロダクトの水準に沿っているという点です。
院長や管理者が見られる情報と、勤務医やスタッフが見られる情報をロール(役割)単位で制御できる設計になっています。たとえば、経営数値や売上データは管理者のみがアクセスでき、勤務医は担当患者の診療情報に限定する、といった運用が可能です。
「すべてのスタッフがすべての情報にアクセスできる」というシステムは、セキュリティ面でも情報過多によるオペレーション面でもリスクがあります。特に分院展開や勤務医の入れ替わりが多いクリニックにとっては、「必要な人が、必要な情報だけを見られる」状態を維持できるかどうかは運用上の重要な論点です。
marchの権限管理はこの点をきちんと押さえており、現代的なWebサービスに慣れた人であれば違和感なく設定・運用できます。
⑥ 使いこなすには学習コストが高い
ここまでmarchの強みを挙げてきましたが、率直に言って「誰でもすぐに使いこなせる」タイプのプロダクトではないと感じています。
流入経路分析、LINE連携のシナリオ設計、セグメント配信の条件設定、権限管理のロール設計など、これらの機能は使いこなせれば非常に強力ですが、初期設定や運用設計にはそれなりの知識と手間が必要になります。
筆者自身はある程度Web系のSaaSツールに日常的に触れていますが、marchのすべての設定を直感だけで完了させるのは難しいと感じました。前述のヘルプ記事やカスタマーサクセス体制があるからこそ乗り越えられる部分であり、サポートなしで「導入した翌日からフル活用」という期待は現実的ではありません。
私はこのようなデメリットがあると感じましたが、単に使いにくいプロダクトである、ということを言いたいわけではなく、これは「柔軟に設計でき、余白の大きいプロダクトである」というニュアンスで捉えていただくのが良いと思います。
クリニックの運用フローや集患導線に合わせて細かくカスタマイズできるからこそ、学習コストが高い反面、画一的なテンプレートでは実現できない柔軟な運用を実現することができます。
marchが特にフィットするクリニック像
ここまでのレビューを踏まえて、marchが特に力を発揮する場面を整理します。
自由診療でWeb集患に力を入れているクリニック ― 流入経路分析とGA連携により、広告投資の効果を来院実績ベースで可視化できます。AGA、ED、美容皮膚科など、オンライン診療と自由診療を組み合わせる業態とは特に相性がよいプロダクトです。
LINE公式アカウントを運用中、あるいは今後本格化させたいクリニック ― 外部のLINEマーケティングツールとの二重管理から解放され、患者コミュニケーションの設計をmarch上で完結できます。物販・定期購入まで含めてLINE上で構築できる点は、他のオンライン診療ツールにはない強みです。
分院展開・スタッフの入れ替わりが多い法人 ― ロールベースの権限管理により、拠点ごと・役職ごとの情報アクセスを制御できます。人数が増えるほど、この機能の運用価値は高まります。
IT知見のある院長、もしくは事務体制が整っているクリニック ― 学習コストが高い分、使いこなしたときのリターンは大きい。初期設定や運用設計に時間を投資できる体制があるかどうかが、marchを活かせるかどうかの分岐点です。
まとめ ― marchは「集患を仕組み化したい」クリニックのためのSaaS
最後に、marchの総合評価をまとめます。
| 評価項目 | 評価(5段階) | コメント |
|---|---|---|
| 集患・マーケティング連携 | ★★★★★ | 流入経路分析・GA連携は他のオンライン診療SaaSにない強み |
| LINE連携の深さ | ★★★★★ | CRM・配信・EC・決済までLINE上で完結する設計 |
| ヘルプ記事の充実度 | ★★★★★ | 網羅性が高く、自力解決しやすい |
| カスタマーサクセス体制 | ★★★★★ | 専任担当+専門者エスカレーションの2段構え |
| 権限管理のモダンさ | ★★★★☆ | ロールベース設計で分院展開にも対応 |
| カスタマイズの柔軟性 | ★★★★☆ | 作り込めるぶん自由度は高い |
| 学習コスト | ★★★☆☆ | 使いこなすにはIT知見のあるスタッフが必要 |
| 導入のとっつきやすさ | ★★★☆☆ | 初日からフル活用できるタイプではない |
総合評価:★★★★☆(5段階中4.3)
marchが最も適しているのは、ITリテラシーの高い院長がいるか、あるいは事務長やシステム担当のスタッフが院内にいるクリニックだと感じました。そうした体制があれば、marchの柔軟性を最大限に活かした運用が可能になります。
逆に、ITに詳しいスタッフがおらず「とにかくシンプルに、最低限の機能だけ動けばいい」というクリニックには、もう少しライトなオンライン診療システムのほうが向いている可能性があります。
marchは、オンライン診療ツールでありながら、集患・CRM・物販までを一つの仕組みとして設計している点で、他のプロダクトとは明確に異なるポジションにいます。
その設計思想は、日々クリニックの集患に携わるマーケターから見て、「かなりクリニック集患に詳しい人が作っている」と感じさせるものでした。流入経路分析、LINEを軸にしたCRM、セグメント配信、EC機能――これらが一つのプラットフォーム上に統合されていることの価値は、集患に真剣に取り組むクリニックほど実感できるはずです。

太田 旭
株式会社eggside 代表取締役。医学生。
自由診療のための医師向けメディア「doctorside」を運営したり、クリニック集患支援を行っている。