本記事では、医師向けメディア「doctorside」を運営しながら医学部に在籍する筆者が、2026年4月施行の管理者要件のうち「3年以上の診療従事経験」の具体的な判定基準を整理しています。
管理者要件の「3年以上」という数字だけが独り歩きしている状況があります。しかし実際には、週何日以上の勤務が必要か、1日何時間以上でカウントされるか、診療所での経験も含まれるのか、時短勤務や大学院在籍中はどう扱われるか──といった実務的な判定基準が細かく定められています。
本記事では、厚生労働省が公表しているQ&Aと療担規則の改正内容に基づいて、自分の勤務実態が要件を満たすかどうかを判断できる情報をまとめています。現在の勤務形態で要件を満たせるか不安な先生、これから要件を満たすための勤務計画を立てたい先生の参考になれば幸いです。
→ 参考記事:保険医療機関の管理者要件が変わった|2026年4月施行の改正健康保険法を医学生が解説
「3年以上」の数え方の基本
原則となる3要件
保険医としての3年の診療従事経験は、以下の3つをすべて満たす勤務で構成されます。
- 週4日以上、常態として勤務していること
- 所定労働時間が週31時間以上であること
- この条件を1か月単位で満たすこと
これらを原則として36か月分満たすことが、「3年以上」のカウント基準です。1日だけのアルバイト勤務や、月に数回だけの非常勤勤務は、原則として算入対象になりません。

「常態として勤務」の意味
「常態として」という文言は、一時的ではなく継続的・恒常的にその施設で勤務している状態を指します。例えば、派遣的に数週間だけ勤務したケースや、突発的な代替勤務は「常態として」には該当しない可能性があります。
勤務場所|病院だけか、診療所でもよいか
改正健康保険法の条文上は「保険医療機関(病院に限る)」と書かれており、文字どおりに読めば病院勤務のみが対象のように見えます。しかし、厚生労働省のQ&Aでは、適用時点により取扱いが異なることが示されています。
2026年4月1日時点で臨床研修を修了済みの医師
病院・診療所を問わず、保険診療その他の業務に従事した経験が3年以上あれば要件を満たします。つまり、診療所での勤務経験も算入されます。

厚労省Q&Aでは、具体的に以下のケースが示されています。「保険医となって10年目の医師で、病院での勤務経験は臨床研修中の2年間のみ。その後は診療所勤務を続けてきた場合」──この医師は、2026年4月1日時点で臨床研修を修了しているため、病院・診療所を問わず保険診療従事経験が3年以上あれば要件を満たします。
2026年4月1日以降に臨床研修を修了する医師
臨床研修中の経験を含めて、病院・診療所を問わず保険診療その他の業務に従事した経験が3年以上必要となります。厚労省Q&Aの例では、2026年3月31日に臨床研修を修了する医師の場合、臨床研修中の2年間を含めてカウントするため、修了後あと1年の保険診療経験を積めば要件をクリアできます(歯科医師の場合は2年)。
勤務形態への配慮|原則を外れるケース
実際の医師の働き方には多様なパターンがあります。原則の要件を厳格に当てはめると要件を満たせなくなるケースに対して、以下の配慮が設けられています。
複数の保険医療機関での勤務
所属する医局や法人の人事の都合により、1週間に複数の保険医療機関で勤務する医師の場合、以下の条件で要件を満たすことができます。
- 1つの保険医療機関において週2日以上、常態として勤務
- 勤務する保険医療機関における診療に従事する時間の合計が週31時間以上
大学病院と関連病院の両方で勤務する医師など、複数施設で分散して働いているケースが典型的にこの配慮の対象です。ポイントは「1施設で週2日以上」という条件がある点です。週1日ずつ5施設で勤務しているケースは、どの施設でも週2日を満たせないため、要件充足が難しくなります。

育児・介護による時短勤務
育児・介護により所定労働時間が短縮された医師については、以下の扱いとなります。
- 週4日以上の常態としての勤務要件は求められない
- 所定労働時間が週30時間以上であればよい
週31時間ではなく週30時間に1時間緩和されており、かつ週4日要件が免除されています。週3日勤務であっても、1日あたり10時間以上で合計30時間を超えていれば要件を満たす計算になります。
大学・大学院在籍者
大学や大学院等に在籍しており、学業や研究等が本業である上で、診療に従事している医師については、以下の条件で期間の1/2を経験年数に算入可能です。
- 週2日以上、常態として勤務
- 診療に従事する時間が週16時間以上
研究活動を並行しながら臨床にも携わる医師のケースで、フルカウントではなくハーフカウントが適用されます。例えば6年の大学院在籍中に上記条件で診療に従事していれば、3年分として算入できる計算になります。逆に言えば、大学院在籍中の勤務だけで3年要件を満たすには最低6年かかります。
自費診療・美容医療の経験は算入されるか
この論点は、美容医療に従事している医師にとって特に関心の高い部分です。
改正健康保険法の文言上、要件は「保険医療機関において保険医として3年以上診療に従事した経験」です。完全自由診療のクリニックは保険医療機関ではないため、そこでの勤務経験は算入されないと解釈されます。

ただし、保険医療機関の指定を受けている美容クリニック(保険診療を一部でも扱うクリニック)で勤務していた場合は、そこでの保険診療従事経験が算入対象になります。また、そのクリニックが保険医療機関であっても、医師個人が自由診療のみを担当していた場合のカウント方法については、通知・疑義解釈での明確化が待たれます。
実務的な整理として、将来保険医療機関の管理者になる可能性を残したい医師は、保険診療を主業務とする病院・診療所での勤務経験を明確に積んでおくことが確実です。
→ 関連記事:直美は本当に「禁止」されたのか?管理者要件の新設が美容医療に及ぼす影響の正確な射程
→ 関連記事:自由診療のみの美容クリニックは管理者要件の対象外|保険併用との分岐点を整理する
厚労省Q&Aの具体的な判定例
厚生労働省が公表しているQ&Aから、代表的な判定例を整理します。
ケース1:保険医10年目・病院勤務は臨床研修2年のみ
保険医として10年目の医師で、病院での勤務経験は臨床研修の2年間のみ。その後は診療所勤務を続けてきた場合。
→ 判定:要件を満たす。 2026年4月1日時点で臨床研修を修了しているため、病院・診療所を問わず保険診療その他の業務従事経験が3年以上あれば要件を満たします。
ケース2:2026年3月に臨床研修を修了する医師
2026年3月31日に臨床研修を修了する医師の場合。
→ 判定:あと1年(歯科医師は2年)の経験が必要。 2026年4月1日時点で臨床研修を修了しているため、臨床研修中の2年間を含めてカウントし、合計3年以上となれば要件を満たします。医師の場合はあと1年です。
カウントの自己チェック方法
自分の現在の勤務実態が要件を満たすかを確認する手順です。
Step 1:勤務先の確認 現在の勤務先は保険医療機関か?(保険医療機関の指定を受けているか)
Step 2:勤務日数の確認 週4日以上の勤務があるか?(複数施設なら、1施設で週2日以上+合計で週31時間以上)
Step 3:労働時間の確認 所定労働時間が週31時間以上か?(育児・介護による時短勤務なら週30時間以上)
Step 4:継続性の確認 上記条件を1か月単位で満たす状態が、通算36か月以上続いているか?
Step 5:例外規定への該当確認 満たしていない場合、専門医資格・地域枠・公務員経験などの例外に該当しないか?
Step 1〜4をすべて満たしていれば要件充足。満たしていない場合はStep 5で例外規定の該当可否を確認してください。
→ 関連記事:研修医・医学生向け|美容医療を志す場合のキャリア設計を管理者要件から逆算する
まとめ
保険医療機関の管理者になるための「3年以上の診療従事経験」は、単純な年数ではなく、週4日以上・週31時間以上の勤務を1か月単位で満たし、通算36か月以上を必要とする基準です。複数施設勤務、時短勤務、大学院在籍中の勤務については個別の配慮規定があり、自分の勤務実態がどのパターンに該当するかを整理することが要件充足の判断の出発点になります。
また、条文上は「病院に限る」と書かれていますが、2026年4月1日時点で臨床研修を修了している医師には、病院・診療所を問わず保険診療従事経験が算入される扱いが示されています。自分の臨床研修修了時期と2026年4月1日の前後関係を確認したうえで、適用ルールを確定させることが実務上の第一歩です。
doctorsideでは、管理者要件・開業規制に関する最新情報を継続的に発信しています。
参照元
- 厚生労働省「保険医療機関の管理者の要件・責務について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70739.html)
- 厚生労働省「保険医療機関の管理者の要件・責務について【別添】疑義解釈・事例集」
- 改正健康保険法第70条の2第1項
- 中医協総会「医療法等改正に伴う療養担当規則等の所要の見直し」答申(2026年1月16日)

太田 旭
株式会社eggside 代表取締役。医学生。
自由診療のための医師向けメディア「doctorside」を運営したり、クリニック集患支援を行っている。