本記事では、医学部に在籍する筆者が、がんの薬物療法を専門にしようと考えている専攻医と研修医のために、がん薬物療法専門医の取得までの年数と、取得後の更新・維持の条件について、日本専門医機構の一次資料を読み解き、整理しています。
以下の数値は、断りのない限り、日本専門医機構がまとめた「日本専門医制度概報 令和7年度版」によります。年数の条件がそろうのは卒業後8年、連動研修が3年ある場合は5年です。連動研修とは、基本領域の専門研修とがん薬物療法の研修を重ねて進める方式です。ただし試験の実施時期と、合格から認定までの期間は資料に載っていないため、卒業から何年目に名乗れるかは確定できません。
がん薬物療法専門医を担当するのは日本臨床腫瘍学会です。資料の到達目標の欄には、臨床腫瘍学を中心にがんの基礎医学、臨床薬理学、緩和医療学を修得し、臓器横断的にがん薬物療法を実践することなどが並びます。
がん薬物療法専門医で押さえておくべき点は、次の3つです。
- 取得までの年数:初期研修2年、基本領域の専門研修3年、がん薬物療法の臨床研修3年です。がん薬物療法の3年は、連動研修が1年あれば2年、2年あれば1年、3年あれば0年になります
- 研修で積む症例:化学療法を実施した90症例を、経験した症例をオンラインに登録する仕組みであるJ-OSLER-Oncol.に登録し、30症例を病歴要約にまとめます
- 更新に試験がある:5年ごとの更新で、50単位を集めたうえで更新試験に合格します。単位とは、更新要件として学会が活動ごとに割り当てたポイントです
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取得までに何年かかるか
資料の申請資格では、医師国家試験合格後2年の初期研修、その後3年の基本領域専門研修の修了と、3年のカリキュラムに則った臨床研修を行い、がん治療に関する十分な業績があることが求められます。年数の条件がそろうのは卒業後8年です。
がん薬物療法の3年は、連動研修があれば短くなります。
- 連動研修が合計1年間ある場合:基本領域の専門研修と重複しないがん薬物療法専門研修期間は2年
- 合計2年間ある場合:同じく1年
- 合計3年間ある場合:同じく0年
初期研修2年と基本領域の専門研修3年にこの年数を足すと、連動研修が1年で卒業後7年、2年で6年、3年で5年です。連動研修が何年できるのか、どの基本領域なら重ねられるのかは資料に書かれていません。
研修の方式について、資料の間に食い違いがあります。厚生労働省の医道審議会に出された「サブスペシャルティ認定領域一覧」は、がん薬物療法を通常研修領域に分類しています。一方、資料の申請資格には、上に引いたとおり連動研修の年数が書き込まれています。通常研修が何を指すのかは一覧に定義がなく、2つの記述の関係もどちらの資料にも書かれていません。年数を決める前に、学会に連動研修の可否を確かめてください。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」、厚生労働省 医道審議会 医師専門研修部会「サブスペシャルティ認定領域一覧」2025年12月19日現在
申請に何が要るか
年数のほかにも、申請資格には条件が並びます。
- 資格:各科の基本となる学会の認定医あるいは専門医であること
- 症例:化学療法を実施した90症例のリストを提出すること
- 病歴要約:総数30症例の詳細を、指定書式の「病歴要約」にまとめて報告すること
- 教育セミナー:申請時から遡る過去3年間に、学会主催の教育セミナーにAセッションとBセッションの双方を含めて2回以上出席していること。この2つが何を指すのかは資料に書かれていません
- 業績:臨床腫瘍学に関連した論文1編と、学会での発表1編以上。どちらも共著で構いません
認定医と専門医の違いや、どの資格が「各科の基本となる学会」にあたるのかは資料に書かれていません。資料が関連学会に挙げるのは、日本内科学会、日本皮膚科学会、日本外科学会、日本産科婦人科学会、日本耳鼻咽喉科学会、日本脳神経外科学会、日本麻酔科学会、日本形成外科学会、日本小児科学会、日本精神神経学会、日本整形外科学会、日本眼科学会、日本泌尿器科学会、日本医学放射線学会の14学会ですが、この欄と申請資格の欄は分けて書かれており、それぞれの資格で申請できるとは書いていません。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
研修で何を経験し、何を提出するか
学会の認定研修施設で自ら経験した受け持ち患者のうち、化学療法を実施した90症例のリストをJ-OSLER-Oncol.に登録し、資格審査委員会に提出します。入院と外来は問われませんが、初期研修中の症例は対象外です。
病歴要約には、総数30症例の詳細を指定書式でまとめます。受け持ち患者は、造血器、呼吸器、消化管、肝・胆・膵、乳房、婦人科、泌尿器、頭頸部、骨軟部、皮膚、中枢神経、胚細胞、小児、内分泌、原発不明の腫瘍の15領域から選びます。内訳の条件は次のとおりです。
- 上限:1領域あたり20例まで
- 必須:造血器、呼吸器、消化管、乳房から各3例ずつ、計12例を必ず含めること
- 望ましい構成:婦人科、泌尿器、頭頸部を含むこと。剖検症例を含むこと
30症例が90症例の中から選ぶものなのかどうかは、資料の書き方からは決まりません。病歴要約の書式と分量も資料に載っていません。
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出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
試験はどう行われるか
資料が試験内容の欄に挙げているのは3つです。
- 書類審査:病歴要約を含みます
- 筆記試験:多肢選択式で全200問です
- 面接試験
試験の実施時期と回数、合格の基準、面接試験の進め方、受験料は資料に載っていません。不合格だった場合にどこからやり直すのかも書かれていません。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
どれくらいの人が合格しているか
資料には直近3年度分の結果が載っています。
- 令和4年度(2022年度):受験者118人、合格者102人、合格率86.4%
- 令和5年度(2023年度):受験者98人、合格者77人、合格率78.6%
- 令和6年度(2024年度):受験者92人、合格者73人、合格率79.3%
不合格だった人は、令和4年度が16人、令和5年度が21人、令和6年度が19人です。3年を合わせると受験者308人に対して合格者252人で、合格率は81.8%です。
受験者数は令和4年度の118人から令和6年度の92人へ26人減っています。理由は資料に書かれていません。母数は小さく、令和6年度なら合格者が1人増えるだけで合格率は79.3%から80.4%へ1.1ポイント動きます。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
がん薬物療法専門医の更新・維持の条件(5年ごと・更新試験あり)
がん薬物療法専門医は5年ごとの更新制で、資料が挙げている条件は次のとおりです。
- 5年間引き続き学会に所属し、がん薬物療法を継続していること
- 5年間に50単位の業績を取得すること。この50単位には、学会主催の年次総会もしくは教育セミナーへの2回以上の出席を含みます
- 更新試験に合格すること
更新試験の形式、問題数、合格の基準、実施の時期は資料に書かれていません。50単位の内訳も、更新できなかった場合の扱いも書かれていません。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
研修施設と指導医、領域の規模、そして制度の歩み
研修施設は3つの区分に分かれます。施設数は、基幹施設69、連携施設323、特別連携施設71の計463施設です。集計の時点は資料に書かれていません。
基幹施設は、がん診療連携拠点病院(都道府県もしくは地域)または国立がん研究センターで、指導医が1名以上いることが前提です。拠点病院の指定要件は資料に書かれていません。そのうえで次のいずれかを満たすと、学会の審査を受けて認定されます。
- 指導医と専門医を加えた数が4名以上であること
- 医学部を有する大学病院であること。分院、支部、大学附属がんセンターは除かれます
- がんセンターであること。国立病院機構、県立、またはそれに準じる法人が対象です
各都道府県の専門研修基幹施設数には、人口などを考慮して上限が設けられています。専攻医には、図書やインターネット環境、ハラスメント委員会の設置、女性専攻医への配慮など適切な研修環境の保障も求められます。
連携施設は、基幹施設と協力して専門研修カリキュラムを施行する施設で、原則として基幹施設でない施設が対象です。基本的な基準には次の内容が並びます。
- 悪性腫瘍患者が常時20名以上入院し、年間のがんの薬物療法が50例以上施行されていること
- 指導医またはがん薬物療法専門医が1名以上在籍していること
- 学会の研修カリキュラムに基づく研修が実施されていること
- 施設の倫理委員会が機能していること
- がん薬物療法に精通した薬剤師と看護師がいること
- 病理学会認定病理専門医が勤務していること。非常勤でも認められます
- 緩和医療の体制が整っていること
- がんに関連した緊急事態に対応できる体制が整備されていること
- 院内または放射線治療に関する研修協力施設内に放射線治療装置が整備されていること
- 院内がん登録が実施されていること
特別連携施設は、基幹施設と連携施設の要件を満たしていないものの、専門研修プログラムの実施上必要と考えられる施設です。指導医数や専門医数が連携施設の要件に届かなくても、都道府県のがん医療の中心的な施設で、研修環境が十分に整備されていることを条件に認定されます。緩和専門施設や過疎地の施設も含まれます。
指導医の要件は4つです。学会の専門医取得後3年以上が経過し専門医資格を1回以上更新していること、申請の時点でがん治療に関する臨床および研究活動を行い、がん薬物治療に関する十分な業績があること、専門医育成のための業務を実施できる環境にあること、学会主催の指導医講習会を修了することです。
がん薬物療法専門医は2025年4月現在で1,825人で、この人数は資料の学会認定専門医数の欄に入っています。機構認定専門医数の欄は「――」で、この記号が0人を指すのか、集計していないことを指すのかは資料に書かれていません。学会の会員数は7,592人で、内訳は医師6,646人、医師以外946人です。
制度の歩みも資料に載っています。2003年3月に日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医制度が発足し、2006年に第1回として47名が認定されました。2018年に機構のサブスペシャルティ領域学会として認定、2025年に整備基準が承認されています。整備基準とは、領域ごとに研修内容や施設の要件を定めた文書で、学会が作り、機構が承認して運用が固まります。厚生労働省の一覧では、この承認日が2025年9月19日、担当する基本領域の学会は日本内科学会とされています。
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出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」、厚生労働省 医道審議会 医師専門研修部会「サブスペシャルティ認定領域一覧」2025年12月19日現在
まとめ|がん薬物療法専門医を目指すなら先に決めること
- 年数:卒業後8年で条件がそろいます。連動研修が1年あれば7年、2年あれば6年、3年あれば5年です
- 連動研修の可否:厚生労働省の一覧は通常研修領域に分類し、資料は連動研修の年数を書いています。学会に確かめてください
- 入口の資格:各科の基本となる学会の認定医あるいは専門医です。どの資格かは資料に書かれていません
- 症例:化学療法を実施した90症例をJ-OSLER-Oncol.に登録し、30症例を病歴要約にまとめます。初期研修中の症例は数えられません
- 試験:書類審査、筆記試験200問、面接試験の3つです
- 合格率:直近3年度は86.4%、78.6%、79.3%で、3年を通すと81.8%です
- 維持:5年ごとに50単位を集め、更新試験に合格する必要があります
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
参考文献
- 日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」. https://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2026/03/gaiho_2025.pdf
- 厚生労働省 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会「サブスペシャルティ認定領域一覧」2025年12月19日現在. https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001675411.pdf
- 日本臨床腫瘍学会. https://www.jsmo.or.jp/

太田 旭
株式会社eggside 代表取締役。医学生。
自由診療のための医師向けメディア「doctorside」を運営したり、クリニック集患支援を行っている。