未経験で美容クリニックのアルバイトを始めようとするとき、「いきなりボトックスやヒアルロン酸の注入を任されて、もし失敗したらどうしよう」と不安に感じる方は、少なくないようです。
先に結論をお伝えすると、未経験の医師が、入ってすぐに一人で注入を任されることは、多くのクリニックではあまりないようです。最初はカウンセリングや問診といった、施術の前の仕事から始まり、注入などは段階を踏んで任されていくのが一般的だと言われています。ただし後で触れるように、研修を簡略にして早めに施術へ回すクリニックもあるようなので、そこは見極めが必要です。
そして、注入などの施術ができるようになると、任される仕事の幅も、時給のレンジも変わってくる傾向があるようです。この記事では、未経験の医師が美容クリニックのアルバイトでまず何を任されるのか、施術ができると待遇がどう変わるのか、そして手技をどこで身につけられるのかを、公的な資料と現場の一次情報をもとに、自由診療クリニックの集患支援をしながら医学部に在籍している筆者がまとめまし
未経験で美容バイトに入って、いきなり注入をやらされる?
未経験で美容クリニックのアルバイトに入った医師が、入ってすぐに一人でボトックスやヒアルロン酸の注入を任される、ということは、多くの場合あまりないようです。
非常勤や単発(スポット)の「未経験可」とされる枠で、最初に任される業務は、問診やカウンセリング、医療脱毛の診察(施術してよいかどうかの判断)、同意書の取得、オンライン診療といった、メスや注射針を使わない領域が中心です。注入やレーザー、手術といった施術は「経験者向け」とされていて、未経験可の枠とは分かれていることが多いようです。
常勤で大手の美容クリニックチェーンに入る場合も、段階を踏んで任せていく仕組みになっていることが多いようです。まず解剖や基礎を座学で学び、見学を経て、指導医に付き添ってもらいながら実施し、最終的に単独で任される、という順序です。研修の期間はおおむね3〜6か月ほどで、「いきなり一人で施術には入らせない」とはっきり書いているクリニックもあります。
一方で、注意しておきたい点もあります。「クリニックは教育機関ではない」「売上が優先で、じっくり学べる環境が整っているとは限らない」と指摘する医師もいて、研修を簡略にして、ヒアルロン酸や二重埋没など特定の施術を早くから繰り返し任せるところもあるようです。「未経験可で高待遇」をうたう求人ほど、その分すぐに現場へ回されることもある、という声も聞かれます。つまり、「いきなり難しい注入を一人で」という不安はそれほど当てはまらない一方で、研修の体制はクリニックによって差が大きい、というのが実情のようです。
施術ができると、時給や任される仕事はどう変わる?
いきなり任されることは少ない一方で、施術ができるようになると何が変わるのか。ここが、未経験から入る医師にとって大事なところだと思います。
結論から言うと、行える施術の種類が増えるほど、時給は高いレンジに乗りやすいようです。ある解説では、未経験でおおむね時給8,000〜10,000円、皮膚科などの経験者で12,000〜15,000円、ボトックスやヒアルロン酸の注入ができる医師になると15,000〜20,000円ほど、という形で、手技のレベルに応じて段階的に上がっていく様子が紹介されています。求人のなかには、業務の内容によって日給を分けて示しているものもあり、診察やカウンセリングが中心の枠と、注入を任せられる医師の枠とで、日給に差がついている例も見られます。
ただし、この差は「カウンセリングだけだと安い」というより、「経験を積み、行える施術が増えるほど、高いレンジに届きやすくなる」と捉えるほうが、実情に近いようです。実際、医療脱毛の問診が中心の枠でも時給1万円前後と高めのことがあり、時給の段差は、専門医かどうかや経験年数で説明されることも多いようです。それでも、施術ができることが収入の面で効いてくる、という方向ははっきりしています。(2023〜2026年ごろの情報です。)
施術を任されるまでに必要なこと|認定講習だけでは足りない理由
では、施術を任せてもらえるようになるには、何が必要なのでしょうか。
現場で「この医師になら注入を任せてよい」と判断される基準は、扱った症例の数、段階ごとのチェックをクリアしているか、上級医の確認を受けているか、といった積み重ねにあると言われています。認定医への昇格まではおおむね半年前後、早い人で3〜4か月ほど、というのが一つの目安のようです。
ボトックスについては、もう一つ手前に越えておくものがあります。ボトックスビスタ(A型ボツリヌス毒素製剤)を美容目的で使うには、製造販売の承認条件として、メーカーが用意している講習(現在はVST)を修了していることが前提になっています。ただ、ここで気をつけたいのは、この講習がインターネット上で完結する座学が中心で、実際に針を持つ実技は含まれていない、という点です。講習を修了しても、それは「製品を扱ってよい」という資格にとどまり、実際に施術を任せてもらえることまで保証してくれるわけではありません。この仕組みの詳しい中身は、別の記事で整理しています。
しかも、教育の体制はクリニックによる差が大きいようです。厚生労働省の検討会の実態調査によると、美容医療を行う医療機関のうち54.4%が、働く医師に対して、経験年数や院内研修、専門医資格といった要件をとくに設けていない、という結果が出ています。求人票に「研修あり」と書かれていても、いざ入職してみると指導してくれる医師がいなかったり、研修が進まなかったりすることがある、という声も聞かれます。つまり、入ってから自然に手技が身につくとは限らず、自分で手技を学ぶ手段を確保しておくことが現実的だと言えそうです。
ボトックス・ヒアルロン酸、部位で難しさはどう違う?
手技そのものにも、部位によって難しさの差があります。どの部位から任されやすいかという順番を、学会や教科書がはっきり定めているわけではありませんが、合併症のリスクという観点から見ると、部位ごとに差があることは、はっきりしています。
ヒアルロン酸の注入で最も重い合併症は、血管の中に誤って注入してしまうことで起こる皮膚の壊死、失明だとされています。日本皮膚科学会などがまとめた『美容医療診療指針』では、失明が起きるのは鼻・眉間・額への注入に集中していると明記されています。失明した症例を集計した報告でも、眉間や鼻が、リスクの高い部位の上位を占めているとのことです。裏を返せば、同じ顔のなかでも、比較的危険度の低い部位と高い部位があるということになります。手技の面では、先のとがった針よりも、先の丸いカニューレと呼ばれる器具を使うほうが、血管の詰まりのリスクが大きく下がると報告されています。
ボトックスについては、眉間と目尻が公式に承認された用量・講習の対象になっていて、標準化された打ち方がある領域です。一方で、エラ(咬筋)・口角・広頚筋などは承認の対象外で、公式に定められた打ち方や教材がありません。こうした部位ごとの違いは、文字を読むだけではなかなか身につけにくく、実際に手を動かして覚えていく必要がある部分だと言えそうです。
手技はどこで身につける?独学・認定講習・ハンズオンの違い
手技を身につける手段にはいくつかあり、到達できるところが違うようです。
- 独学(教科書や論文を読む):解剖や使用量の知識は身につきますが、針を進めるときの感覚や、左右差をそろえる調整、合併症が起きたときの実際の対応までは、文字を読むだけではなかなか補いきれないと言われています。
- メーカーの認定講習:先ほど触れたとおり、インターネット上で完結する座学が中心で、実技は含まれていません。製品を扱う資格にはなりますが、施術を任せてもらえる保証にはなりません。
- ハンズオン:座学に加えて、モデルを相手にした実技があります。費用は形式によってかなり幅があり、無料で開かれているものから、ヒアルロン酸のハンズオンで8万円ほどするものまであるようです。
- 院内での指導や、指導医への付き添い:解剖・手技・カウンセリング・合併症への対応までを、現場で積み上げていけます。ただし、ここはクリニックによる差がかなり大きいところだと言われています。
こうして見ると、座学で学べることと、実際に手を動かして身につけることのあいだには、はっきりした差があるようです。実技を伴うハンズオンや、指導医のもとでの経験が、その差を埋める部分になります。
なお、ここまでは、これから美容のアルバイトを始める方を想定して見てきました。ただ、手技を集中的に学ぶハンズオンが向いているのは、どちらかというと、すでに美容クリニックで働いていて、任される施術の幅を広げたい、単価を上げたい、と考えている医師です。実際、医師向けの注入ハンズオンのなかには、「収入の向上や、扱える治療の幅を広げたい医師」を対象としてうたっているものもあります。これから始める段階の方は、まず現場の業務に慣れ、できることを一つずつ増やしていくのが先になります。
doctorside でも、座学だけでは届きにくい部分を補うために、手技の動画と、東京で行うハンズオンを組み合わせて提供しています。すでに現場に出ていて、任される施術を増やしたい、単価を上げたい、という方には、こうした形で手技を集中的に学ぶ方法もあります。
LINEでハンズオンの案内を受け取るまとめ
- 未経験で、入ってすぐに一人で注入を任されることは多くなく、最初はカウンセリングや問診から、段階的に任されていくのが一般的。ただし、研修の体制はクリニックによる差が大きい。
- 行える施術が増えるほど、時給は高いレンジに乗りやすい。
- ボトックスの認定講習は座学が中心で実技を含まず、教育の体制も施設による差が大きい。
参照元
- 美容医療診療指針(日本皮膚科学会・日本形成外科学会・日本美容皮膚科学会)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/biyo2v.pdf
- 美容医療の適切な実施に関する検討会 実態調査(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001318152.pdf
- ボトックスビスタ 製品・講習情報(アラガン・エステティクス)https://www.allerganaestheticsadvantage.jp/product/botox-vista
- 注入手技における血管塞栓のリスク(針とカニューレの比較・PMC)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7774041/
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太田 旭
株式会社eggside 代表取締役。医学生。
自由診療のための医師向けメディア「doctorside」を運営したり、クリニック集患支援を行っている。