本記事では、医学部に在籍する筆者が、乳腺を専門にしようと考えている専攻医と研修医のために、乳腺専門医の取得までの年数と、取得後の更新・維持の条件について、日本専門医機構と厚生労働省の一次資料を読み解き、整理しています。
以下の数値は、断りのない限り、日本専門医機構がまとめた「日本専門医制度概報 令和7年度版」によります。この資料が挙げる年数の条件は「医師免許取得後7年(臨床研修終了後5年)以上経過していること」です。ただし、これとは別に通算5年以上の修練も必要で、その起点がこの資料にないため、7年で揃うとは限りません。7年は申請できる時期の下限であって、認定される時期でもありません。試験日や認定日もこの資料には載っていません。
この資料が個別のページを設けているサブスペシャルティ領域は29、厚生労働省の資料「サブスペシャルティ認定領域一覧」(2025年12月19日現在)に載るのは31領域で、乳腺外科はどちらにも入っています。数が合わない理由はどちらの資料にも書かれていません。乳腺専門医はこの乳腺外科に対応する資格で、認定しているのは日本乳癌学会です。名前がずれているので、本記事では領域を乳腺外科、資格を乳腺専門医と書きます。
乳腺専門医で押さえておくべき点は、次の3つです。
- 年数:医師免許取得後7年(臨床研修終了後5年)以上に加えて、所定の施設で通算5年以上の修練が必要です。修練をいつから数え始められるのかは資料になく、7年より長くかかる場合があります
- 診療経験:乳癌症例を100例以上診療します。求められているのは診療の経験で、手術の件数だけを数えるとは書かれていません
- 合格基準:筆記試験の合格基準は「正答率70%〜80%」と数値で書かれています。60題の70%は42題、80%は48題にあたりますが、どちらが適用されるのかは資料に書かれていません
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乳腺専門医の取得までに何年かかるか
年数の条件は、医師免許を取ってから7年、言い換えると初期臨床研修の2年を終えてから5年で、2つの書き方が指す時点は同じです。これとは別に、所定の施設で通算5年以上の修練が必要で、この5年をいつから数え始められるのかは資料になく、数え始めが遅れれば、その分だけ申請できる時期は後ろにずれます。修練の場として資料が挙げているのは、次の5つの区分です。
- 乳腺外科専門医研修カリキュラムの基幹施設
- 同じカリキュラムの連携施設
- 日本乳癌学会が認定した認定施設
- 同じく関連施設(資料は「2025年12月まで存続」と記しています)
- 研修認定施設(資料は「1999.1〜現在」と添えています)
認定施設と関連施設での研修は、常勤またはそれに準ずる勤務であることが必要です。5つのうち、施設が満たすべき条件が資料にあるのは認定施設だけで、その中身は後の節で扱います。
入口になる基本領域についても見ておきます。厚生労働省の一覧で、領域ごとに担当する基本領域の学会を示す欄に挙がっているのは日本外科学会ですが、この欄が入口を外科だけに限る意味かは、どちらの資料にも書かれていません。次の節で見る申請資格の項目にも、外科専門医の名前は出てきません。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」、厚生労働省 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会「サブスペシャルティ認定領域一覧」2025年12月19日現在
申請資格として求められる7項目
資料は7つの項目を挙げています。
- 日本国の医師免許証を持っていること
- 基盤学会専門医または日本乳癌学会の旧認定医であり、継続して5年以上、日本乳癌学会の会員であること
- 医師免許取得後7年(臨床研修終了後5年)以上が経過していること
- 前の節で挙げた施設で、通算5年以上の修練を行っていること
- 別に定める診療経験を持つこと
- 別に定める研究業績を持つこと。業績点数表(業績1件ごとの配点を定めた表)で30点以上とし、そのうち学会機関誌などに掲載された筆頭著者の学術論文を1編以上含むこと
- 日本乳癌学会が主催する専門医・認定医セミナーの受講歴を持つこと
2つめの基盤学会がどの学会を指すのかは資料にありません。同じ項目の認定医とは、日本乳癌学会が乳腺専門医とは別に認定している資格です。認められるのは旧認定医で、資料の注記によれば、2023年までに新規または更新の申請を行って承認された認定医を指します。学会は2024年から新しい認定基準による認定医の募集を始めていますが、この新しい認定医が旧認定医と同じ扱いになるのかは書かれていません。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
診療経験は乳癌100例、研究業績は30点
申請資格の5つめの診療経験と、6つめの研究業績の中身を見ます。
診療経験の条件は、乳癌症例を100例以上診療していることです。数えられるのは基幹施設と連携施設、または学会の認定施設と関連施設で積んだ経験で、前の節の5区分のうち研修認定施設が入っていません。研修認定施設で診た症例を数えられるのかは資料に書かれていません。資料の言い方は「乳癌症例の診療経験」で、手術の件数だけを数えるとは書かれていません。手術症例で申請する場合の条件も書かれているので手術症例も100例に数えられると読めますが、その場合は2012年1月以降の手術が、手術症例のデータベースNCD(National Clinical Database)に登録したものに限られます。
研究業績は、業績点数表で30点以上です。点とは、業績1件ごとに学会が割り当てた数値で、ほかの多くの領域が更新に使う単位、つまり研修に参加すると与えられるポイントとは別の集計です。業績点数表の配点は資料に載っていないため、何をいくつ書けば30点に届くのかは分かりません。30点のうちに学会機関誌などに掲載された筆頭著者の学術論文を1編以上含める必要があり、共著の論文だけでは満たしません。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
試験は書類審査のあとに筆記60題と口頭試問
認定はまず書類審査から始まり、合格した人が筆記試験と口頭試問に進みます。筆記試験は多肢選択式で、計60題です。出題は2つの範囲から構成されます。
- 基本的事項:疫学、解剖、生物学、病理など
- 専門的事項:画像診断、外科療法、内科療法、放射線療法
合格基準は「正答率70%〜80%」と資料に書かれています。60題の70%は42題、80%は48題ですから、必要な正答数は42題から48題の間です。70%と80%のどちらが適用されるのか、この幅が何を表すのかは書かれていません。
口頭試問では、資料によれば「実際の臨床経験が十分にあるか」「論文発表や学会発表を行った業績が身についているか」などが問われます。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
認定試験の合格率は3年とも80%台
乳腺専門医の認定試験の結果は、直近3年度分が資料に載っています。
- 令和4年度(2022年度):受験者133人、合格者107人、合格率80.5%
- 令和5年度(2023年度):受験者134人、合格者109人、合格率81.3%
- 令和6年度(2024年度):受験者117人、合格者98人、合格率83.8%
不合格だった人は、令和4年度が26人、令和5年度が25人、令和6年度が19人です。3年の幅は3.3ポイントです。受験者は令和6年度が最も少なく、増減の理由は資料に書かれていません。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
乳腺専門医の更新・維持の条件(5年ごと・乳癌100例)
乳腺専門医は5年ごとの更新制です。更新には次の4項目すべてを満たす必要があります。
- 継続して日本乳癌学会の会員であること
- 過去5年間に100例以上の乳癌症例の診療経験を持つこと
- 過去5年間に、業績点数表で8点以上の研究業績を持つこと
- 過去5年間に、研修実績点数表で30点以上の研修実績があること。研修実績が何を指すのかは資料に書かれていません
更新の100例は過去5年間に限って数えるので、1年あたり20例です。研究業績は新規申請が30点以上、更新が8点以上で、どちらも「業績点数表」で数えます。更新の研修実績30点は別の研修実績点数表で数え、どちらの配点も資料には載っていません。
資料は、医療安全と医療倫理の研修を、新規申請の7つめの条件と同じ専門医・認定医セミナーで行っている、と書いています。この研修が上の4項目に含まれるのか、それとは別に求められるのかは書かれていません。
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
専門医は2,000人台、認定施設は882
専門医数は資料の2か所で数が違います。乳腺のページは2,005人(2025年8月現在)、学会ごとの一覧表は日本乳癌学会の学会認定専門医数を2,040人としています。学会認定専門医とは学会が認定した専門医、機構認定専門医とは日本専門医機構が認定した専門医で、一覧表はこの2つを別々に数えています。一覧表に基準日がないため、この差が時点の違いによるものかは分かりません。一覧表の同じ行で機構認定専門医数の欄は「――」ですが、この記号が0人を指すのか集計していないことを指すのかは書かれていません。
研修施設の数は乳腺のページに載っていて、認定施設が882、関連施設が66、総数は948です。基幹施設、連携施設、研修認定施設の数は載っていません。資料はこの関連施設66について「2025年12月まで存続」と記していますが、2026年1月以降も残るのか、関連施設で積んだ修練がその後も認められるのかは書かれていません。関連施設での研修を考えているなら学会に確認してください。
認定施設として認められる条件は2つです。
- 日本乳癌学会の認定医、乳腺専門医、乳腺外科専門医のいずれかが常勤していること。または学会の会員が常勤したうえで、これらの資格を持つ医師による定期的な専門外来を月1回以上設けて診療し、指導体制が整っていること
- 年間の乳癌診療症例数が20例以上あること。この症例数は、手術、診断、化学療法、放射線治療のいずれか1つの分野についての年間症例数を指す
条件に出てくる乳腺外科専門医は、領域名の乳腺外科とも資格名の乳腺専門医とも別の呼び方で、その要件も違いも資料にありません。指導する側についても見ておきます。指導医とは、認定医や専門医を目指す人を指導する立場の医師です。上の2つの条件に指導医は入っておらず、資料は、指導医が認定施設に所属して専門医と専攻医を指導していることが望ましい、と書くにとどめています。
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出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
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まとめ|乳腺専門医を目指すなら先に決めること
- 年数:医師免許取得後7年(臨床研修終了後5年)以上、通算5年以上の修練、継続5年以上の会員歴が要ります。修練の起点は資料にないので、7年で申請できるかどうかは数え始めがいつになるかで決まります
- どこで積むか:カリキュラムの基幹施設と連携施設、学会の認定施設と関連施設、研修認定施設です。ただし100例の診療経験に数えられる施設から研修認定施設は外れ、関連施設は2025年12月までの存続と記されています
- 何を積むか:乳癌症例100例以上の診療経験と、業績点数表で30点以上の研究業績です。30点のうち筆頭著者の学術論文が1編以上必要で、共著だけでは満たしません。専門医・認定医セミナーの受講歴も要ります
- 試験と合格率:書類審査のあと多肢選択式60題と口頭試問で、合格基準は正答率70%〜80%、42題から48題の正答にあたります。70%と80%のどちらが適用されるのかは資料にありません。直近3年度の合格率は80.5%、81.3%、83.8%です
- 維持:5年ごとの更新で、会員の継続、過去5年間の100例の診療経験、研究業績8点、研修実績30点が要ります
- 規模:専門医は2,005人ないし2,040人、認定施設882と関連施設66で総数948です。認定施設の条件には指導医が入っておらず、資料は指導医が所属していることが望ましいと書くにとどめています
出典:日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」
参考文献
- 日本専門医機構「日本専門医制度概報 令和7年度版」. https://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2026/03/gaiho_2025.pdf
- 厚生労働省 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会「サブスペシャルティ認定領域一覧」2025年12月19日現在. https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001675411.pdf
- 日本乳癌学会. https://www.jbcs.gr.jp/

太田 旭
株式会社eggside 代表取締役。医学生。
自由診療のための医師向けメディア「doctorside」を運営したり、クリニック集患支援を行っている。